ケベック州のバンライフ産業が失速しない理由と、日本の車中泊市場が学べる3つの視点
ニュースの概要
カナダ・ケベック州で、コロナ禍をきっかけに広がったバンライフ需要が一時的な流行で終わらず、いまも続いていると報じられた。インフレや車両価格の上昇が続くなかでも、改装済みキャンピングバンの購入やレンタルの需要は底堅い。これを受けて複数の事業者が生産能力を引き上げている。VanLife Campersはモントリオールで約8万5,000平方フィートの新拠点へ移り、Bromont Campervanも新工場を開設した。ほかにも拡張に動く企業が出ており、産業としての裾野が広がりつつある。ブームが去ったあとも需要が残ったという点が、このニュースの核心である。
引用元: ケベック州のバンライフ産業、コロナ後も成長続く(OpenVan Camp)
分析・見解
追い風が消えても需要が残った本当の理由
コロナ禍の需要は、旅行制限による代替手段という性格が強かった。人混みを避けて移動できる、宿泊先の予約に縛られない。この二つが車で寝泊まりする暮らしを押し上げた。ところが制限が解けても、ケベックの需要は落ちていない。ここから分かるのは、バンが「他に選択肢がないときの代用品」から「自分で選ぶ旅と暮らしの形」へ変わったことだ。一度体験した人は、宿の混雑や価格に左右されない自由さを手放しにくい。
同じ現象は、自転車やキャンプ用品の市場でも見られた。外出制限で伸びた分野のうち、体験の質が高いものだけが需要を維持している。バンライフもその例に入ったと見てよい。
工場の移転と新設が示す、産業としての成熟
今回のニュースで注目すべきは、売れ行きの数字よりも設備投資の動きである。約8万5,000平方フィートは、ざっくり東京ドームのグラウンド面積の約6割にあたる広さだ。小さな工房が手作業で一台ずつ仕上げる段階から、工程を分けて量産に近づける段階へ移ったことを意味する。
設備に投資するということは、経営者が数年先まで需要が続くと見ているということだ。借入や人員採用を伴う判断だから、短期の流行を見込んだ動きとは考えにくい。
なお、記事の要約からは各社の生産台数や売上高までは読み取れない。投資額と実需の関係は、今後の決算や発表で確かめる必要がある。
値上がりしても売れるのは、買い手の層が変わったから
インフレと車両価格の上昇は、本来なら需要を冷やす材料である。それでも売れているなら、買い手の層が広がったと考えるのが自然だ。かつての中心は、週末に遊ぶ趣味層だった。いまは、リモートワークを前提に仕事場として使う人や、住居費を抑えたい人、二拠点生活を試したい人が加わっている。
用途が増えれば、価格への耐性も上がる。単なる遊び道具なら高いと感じる金額でも、仕事場と宿泊先を兼ねるなら割に合うと判断できるからだ。購入だけでなくレンタルも伸びている点も、試してから決めたいという慎重な層が入ってきた証拠といえる。
日本市場に当てはめたときの見立て
日本でも車中泊への関心は高いが、制度や置き場所の事情はケベックと違う。駐車や宿泊のできる場所が限られるため、車両の台数が増えても受け皿が追いつかない恐れがある。ケベックの事例が示すのは、車両の製造だけが伸びても産業は育たず、使う場所、貸す仕組み、直す人材が一緒に育つ必要があるということだ。
逆にいえば、日本は車両側の課題よりも、受け入れ環境を整えた地域が先に恩恵を受ける構図になりやすい。
ビジネスへの影響
キャンピングカー事業者は、生産より先に納車後の体制を固める
需要が続く局面では、製造能力の拡大に目が向きがちである。しかし長く使われる車両ほど、点検や修理、部品の供給といった納車後の対応が評価を左右する。工場を広げる前に、整備拠点と相談窓口を整えておくと、口コミで差がつく。具体的には、購入者向けの定期点検の案内や、水回り・電装など故障しやすい部分の対応手順を先に決めておくとよい。
レンタルを手がける事業者は、購入検討者の試乗の場として位置づけ直す手もある。貸した客が数か月後に買い手になる流れを作れば、需要の波にも強くなる。
自治体や宿泊施設は、車で来る人の受け皿を観光資源に変える
バンライフが定着すると、道の駅やオートキャンプ場、空き地を活用した車中泊向けの拠点が求められる。電源、水、ごみ処理、シャワーがそろうだけで、滞在日数と地域での消費額は変わる。宿泊施設にとっても、駐車区画を使った低コストの新サービスは検討に値する。
ただし、騒音やごみ、長期滞在をめぐるトラブルは避けにくい。利用ルールを事前に明文化し、予約制にするなど運営の線引きを決めておくことが欠かせない。
投資判断では、流行ではなく用途の広がりを見る
関連事業に参入する企業や投資家は、売上の伸びだけでなく、買い手がどんな目的で使っているかを確認したい。仕事、居住、観光と用途が増えている市場は、景気の変動に比較的強い。まず小さく始め、レンタルや改装代行など資金負担の軽い形で顧客の反応を測ってから、製造や拠点づくりに進む順序が現実的である。